二階から目薬

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 ……そうだ、今はとにかく急げ。  過去の恋心なんてどうでもいい。   いつかの胸にポッカリと穴が開いたような喪失感なんてどうでもいい。  イケメン御曹司との幸せな未来を歩む彼女なんてどうでもいい。   そのうち出会うであろう俺の結婚相手との未来なんてどうでもいい。  「…………」    そうやって徐々に徐々に俺たちが会わなくなっていくことなんてどうでもいい。  盆や暮れに実家へと戻った時、偶然に顔を合わせて、互いの近況や子供の自慢なんかをしあうことなんてどうでもいい。  ちょっとした昔ばなしに花を咲かせることなんてどうでもいい。   随分と老けたんじゃないかと軽口を言い合うことなんてどうでもいい。  やっぱり楽しいなと思うこと。   在りし日の追憶を懐かしむこと。    ほんの少しだけ寂しくなること。  そうしてまた、それぞれがそれぞれの帰る場所へと。  それぞれがそれぞれに築き上げた、『幼馴染』のままではついぞ辿り着けなかった、『家族』という繋がりで結ばれた人たちのところへと戻っていくことなんて……。  今更もう……   どうだっていいじゃないか……  「っく……」  ああ、やっぱりコンタクトレンズは苦手だ。  目が無性にグズグズとする。        
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