四章・雨色に染まる異世界生活~ARURU‘s view~

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 イチジ様のところからわたくしの方に向かって、瓦礫や石畳の凹凸など苦にもせず、真っすぐに転がりながら、声が近づいてきます。    ――この狭苦しいところからオサラバしようかのぉ――  ゴーン……ゴーン……ゴーン……    声が言います。  ピタリとわたくしの前で止まった黄色の球体から。  唐突に鳴り出した荘厳な鐘の音をバックにして。  声がそう言います。  ――そろそろ今宵の宴もたけなわに差し掛かる頃合い……――  ゴーン……ゴーン……ゴーン……     声が告げます。    終焉の訪れを予感させる鐘とともに、とある小さな街を舞台にした、ただ一夜の物語の終わりを。    ――悲劇的にして喜劇的。劇的にして劇にもならないありふれた話。……どこにでもいそうでどこにもいない。そんな一人の男を主役にすえた物の語り。……有象無象に埋もれても、不浄不精に揉まれても、決して褪せない宝玉の君……――  ゴーン……ゴーン……ゴーン……    声は語ります。    それはまるで魔術の詠唱。  どこか芝居がかった口調ではありますが、ゆえに術式に記された物語をそらんじてでもいるかのよう。    言葉の一言一句に、思わずわたくしの体がビリビリとくるくらい、かなりの量の魔力が込められています。     
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