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イチジ様のところからわたくしの方に向かって、瓦礫や石畳の凹凸など苦にもせず、真っすぐに転がりながら、声が近づいてきます。
――この狭苦しいところからオサラバしようかのぉ――
ゴーン……ゴーン……ゴーン……
声が言います。
ピタリとわたくしの前で止まった黄色の球体から。
唐突に鳴り出した荘厳な鐘の音をバックにして。
声がそう言います。
――そろそろ今宵の宴もたけなわに差し掛かる頃合い……――
ゴーン……ゴーン……ゴーン……
声が告げます。
終焉の訪れを予感させる鐘とともに、とある小さな街を舞台にした、ただ一夜の物語の終わりを。
――悲劇的にして喜劇的。劇的にして劇にもならないありふれた話。……どこにでもいそうでどこにもいない。そんな一人の男を主役にすえた物の語り。……有象無象に埋もれても、不浄不精に揉まれても、決して褪せない宝玉の君……――
ゴーン……ゴーン……ゴーン……
声は語ります。
それはまるで魔術の詠唱。
どこか芝居がかった口調ではありますが、ゆえに術式に記された物語をそらんじてでもいるかのよう。
言葉の一言一句に、思わずわたくしの体がビリビリとくるくらい、かなりの量の魔力が込められています。
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