418人が本棚に入れています
本棚に追加
/141ページ
あれ以来急激に距離を縮めた私たちは、会社で会話を交わすだけではなく、プライベートの時間も一緒に過ごすようになった。
会社帰りの食事はもちろん、休日に一緒に出かけることも。
一応、デザイナーの端くれである私は、会社を離れた時もインスピレーションを刺激されるものに触れようとする癖が付いている。
出かけた先で珍しい動植物に出会ったり、心を洗われるような景色を見た時には、それを記憶に留めると同時に写真に収めている。
出会った年の秋、莉子の運転で紅葉狩りに出かけた。
この日も私は、最初のボーナスで買った一眼レフを手に取り、河原の砂利の上で紅く染まった景色にレンズを向けていた。
「ねぇ、今度綾の絵が見たいな」
莉子が私の横でしゃがみ込み、小石をいじりながら言った。
私の真似をしているのか、莉子は手のひらに乗せた小石にスマホを向け、「この石面白いなぁ」などと言いながら写真を撮っている。
「いつか見せてね」
「人に見せるようなものじゃないよ。大したもの描いてないし」
「そう? でも見たい」
「まぁ、機会があったらね」
結局その日の夜、莉子の希望で私の部屋で過ごすことになった。
「絵が見たい!」と何度もせがんでくる莉子に負け、就職を機に引っ越してきたアパートの押入れを開けた。
子どもの頃から毎日のように絵を描いていた何冊ものスケッチブックや、高校時代に通っていた絵画教室で描いた油彩の静物画。
それから、練習のためにひたすらデッサンした何枚ものコピー用紙。
それらを押入れの奥から引っ張り出し、カーペットの上に広げる。
最初のコメントを投稿しよう!