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もちろん、その時の会話は覚えている。
答えをしぶりながらも、実はあれから莉子をイメージして何度も筆を執った。
でも、元々人物画が苦手なこともあってか、なかなかイメージ通りに筆が進まない。
そして、莉子への思いを自覚した頃から、私は挑戦することをやめた。
「んー、人物画は苦手なんだよね。もともと工業デザイン専門だし……」
「抽象的なデザインでいいんだよ。私をどうイメージしてるか興味あるんだ」
「抽象画でいいの?」
「うん。……で、それをこっそり商品化できたら面白いよね。今度のプレゼンまでに描いて来てよ」
「……はぁ、結局仕事の話かぁ」
もしかしたら、巷で出回っているものの中にも、誰かが誰かを想いながら作ったものがあるのかも知れない。
日常で何気なく使っているものにもそんなドラマがあるのかも知れない。
それはそれでロマンチックな話だと思う。
でも、本当のロマンチストは別のことを考える。
「面白いと思うけどさ、それはやめとく。絶対」
「え、なんで?」
「莉子のイメージなんて私だけが知ってればいいの。他の誰の目にも触れさせたくない。っていうか触れさせない」
そうキッパリ言い切る私を見て、莉子は口元を綻ばせた。
顔が少し赤くなっている。
「あれ? 綾、顔赤くないね?」
莉子は私をからかうようにそう言う。
照れ隠しの仕草にキュッと胸が締め付けられ、横に寝転ぶ莉子の身体を思わず抱きしめた。
「逆転現象だね。莉子には負けないよ」
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