4人が本棚に入れています
本棚に追加
ーーしかし、俺は人から言わせれば鈍感らしい。
元カノジョには『あんたの事は好きだけど鈍感過ぎてやっていけない!』とキレられて振られてしまった。
振られてしまっても『まー仕方ないか』とか『連絡無くなってゲームする時間や睡眠時間伸びるな』とか考えていたし。
鈍感で冷めた人物だとよく親に言われて育ったし。
好きではあったけど、そこに愛は無かった気がするし。
全従業員50名弱、3ヶ月で辞めた人数20名弱というブラック企業に耐えられたのもひとえに実家から自転車で5分掛からない距離にあったという点のみであった。
最近、胃がキリキリ痛むが会社に居る間だけの時間だしほっといていた。
ーーーーー
「はぁ……、ようやく仕事が終わったぜ」
オフィスから抜け出した先には暗くなった空が俺を出迎える。
そこから駐輪場に泊めた自転車の元へ歩く。
自転車の鍵を開けて、カゴに鞄を入れようとすると見慣れないもののシルエットがカゴから覗いていた。
「ん……?誰だよ俺の自転車のカゴに変なもん入れやがって」
自転車のカゴからそのシルエットの物を持ち上げる。
軽い板みたいな感触がして、それを街灯に照らして見てみる。
「これは、絵馬?」
神社などでよく見掛ける絵馬の形に似ていた。
願い事が書かれるであろう面積の広い板の部分にはなんかの紋章が書かれている。
「近くに神社ってあったっけ?」
頭に近所の地図を描いていく。
その時、絵馬らしき物が振動し始める。
「うわっ、ゲームのコントローラー!?」
たまに扱うコントローラーの様に両手で持ってみる。
ボタンは無かったのでコントローラーではなさそうだ。
『ーー勇者様……、我の望みに応えて』
どこからかRPGにありがちな召喚する時の詠唱らしき羅列が聴こえる。
キョロキョロ辺りを見回すが誰も居ない。
「なんでもいーや」
自転車のペダルに足を掛けた時であった。
『ピカッ!』と明るい光が自転車を囲む。
夜という事もあり、とても直視出来なくて腕で目をガードする。
目を薄く開けて、腕の隙間から光を覗くと線が引かれるのに気付く。
光の線は先程拾った絵馬に描かれた紋章に似ていた……気がした。
「……っ」
そのまま強風が吹き込み光に吸い込まれていく。
「じ、自転車……」
そこそこ奮発して買った自転車を強く握りしめたまま俺の意識は消えていった……。
それが俺が勇者として召喚された直前の記憶であった。
最初のコメントを投稿しよう!