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「おもしろそうだよね? ね? 舞友、やってみてよ。舞友は可愛いもんね。舞友の運命の人が、どんな人なのか、あたしたちも見てみたいよ。絶対、素敵な人だよ」
美歌はそう言って、イヤがる舞友をここまでつれてきた。
本心はわかっている。
十数えても誰も現れなかったら、「わぁっ、舞友。かわいそう! 運命の人、いないんだぁ!」と、さわぎたてて、舞友をみじめな気持ちにさせるつもりだ。
わかっているけど、やらなければやらないで、またイジメられる。それだけのこと。何をしても、何もしなくても、舞友の現状は変わらない。
せめて、なんとなく、カッコイイ人が横断歩道のむこうがわに立っているときにやろうと、舞友は考えていた。
信号が青に変わってその人が歩いてきたら、もしかしたら、さっきの人だったんじゃないかと反論できる。
でも、横断歩道のむこうで赤信号に足どめされているのは、くたびれた感じのおじさんが数人。買い物かごをさげた自転車に乗ったおばさん。すごく太った大学生くらいの男とか。
そのとき、ピロンとスマホが鳴った。美歌からLINEのメッセージだ。
『早くして』
ピロン。
『まだなの?』
ピロン。
『怒るよ?』
しょうがない。イヤだが、やるしかない。
舞友は覚悟を決めて、数をかぞえた。
小声で、できるだけ早口に。
「一、二、三、四、五、六、七、八、九、十」
どうせ誰も来ない。
奇跡は起こらない。
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