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(あ、あ、あの後ろ姿は……!!)
俺たちの目の前にいるのは、かの有名な女性、西條奈々子さんであった。(後ろ姿からでも“私いい女性でしょう?”と言うオーラが放たれている。)
彼女の隣には男性がいて、二人の距離の取り方から彼氏だと何となく分かった。
「…………」
「 ………… 」
もちろん、アキも気が付いていて、二人でフリーズして顔を見合わせた。
奈々子地獄のトラウマがリバースしてきた俺たちは、ゆっくりと静かに後退りする。
が、しかし……
「あちゃ! アッ、パンマ! アンパン!」
両親の心情虚しく、アンパンのヒーローのお菓子を見つけて興奮する息子の声により、奈々子さんはくるりと振り返った。
「……!!」
奈々子さんはもちろん俺たちの存在に気がついて驚いた顔をした。
しかし、その後彼女は頭をゆっくりと下げた。
そして静かに顔を上げると 本当に申し訳なさそうな表情で、眉を下げて俺たちを見つめていた。
だから、俺たちも丁寧にお辞儀を返した。
会話をするような発展は、奈々子さんと俺たちの間では無かったけれど、彼女の表情と行動が、“彼女が変わった”のだと感じることができた。
そうして彼女は男性と一緒に静かにその場を去って行った。
「……奈々子さん、元気そうで良かったな。表情も前より優しくなってる気がする。」
「 そうだね…… 今度は本当の幸せを掴んで欲しいね。 」
俺はアキと顔を見合わせて微笑み合う。
憎んだり、傷ついたり、いろいろあったけど、今穏やかな気持ちでいられるのはアキのお陰だと思う。
「 アキ、ありがとう。 」
「へっ? 何のありがとうだよ?」
「 何のありがとうかは、言い尽くせない。沢山ありすぎて。 」
「なんか急に怖かね〜」
アキはガタガタと身体を震わせた。
「ゆちゃ、あちゃ、アンパ!アンパ!」
しかしハルは、両親の和気藹々な雰囲気なんて、お構い無しと、お菓子に手を伸ばす。
「 ハル、分かったよ! 」
「お菓子、買おうな。」
ハルはお菓子をゲットするとブンブンと腕を振り回して嬉しさを表現した。
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皆さま、語りは変わりまして、私奈々子ですわ。
先程は突然行人さんと秋さんに出会ってビックリ致しました。
それにしても二人の表情が、お化けを見るような顔だったのには、悲しみを覚えましたわ。
今度会った時は、度肝を抜かせる程の素敵な淑女になってますわよ!
うふふふ……
行人さん、後悔させますからね。
end.
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