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行人は、夕食を食べながら、森慎也から『海外に一緒に行く』と言う話があったことを、秋に包み隠さず話した。
(行人はあの一件以来、秋を心配させても、させなくても、取りあえず全部話すようになった。)
秋は 少し驚いた表情の後に、俯き行人の視線から逃れた。
( アキが悲しそうな顔してる )
行人は、動かしていた箸の動きを止めた。
「 アキ、ごめん!
そうだよね、子供も小さいのに、海外に行くなんて、ありえないよね! 森さんには明日断りを入れるから!」
行人がそう言うと、秋は顔を上げて、パジャマの裾を持ちながら立ち上がり、ハサミを取りに行く。
「う〜ん? 大丈夫か? それで森さんから怒られたりしないのか?」
のんびりした秋の言葉が行人に飛んでくる。
どうやら俯いたのは、行人が海外に行くことが悲しいと言う訳ではなく、パジャマの裾からほつれた糸が伸びていたのが気になっていた 秋 だ…
「 いや、あ… 怒られたりとかは 無いと思うけど 」
「そっか、ならいいか!」
「 あの、アキさん?
もし俺が海外へ行ったら寂しいな〜とかそんな気持ち、ちゃんと持ってくれてる? 」
「ん? もちろん持ってるに決まってるだろ!」
秋は、膨れっ面になりながら、ほつれた糸をハサミで「パチン!」と切ると、その糸を捨てるために、再び立ち上がり ゴミ箱のところへ行く。
そして、また椅子に座ると「ふぅ…」とため息を放ち、行人を 微笑んで見つめた。
「なぁ、ユキ、 俺たちさ、どれだけの年月を離れてた?」
その問いに次は、行人が固まった。
行人は指を追って数える。
「 14年 くらい 」
「そっか。 そんな長い間、ユキは俺のことずっと想ってくれてたんだな…
まっ、途中 いろんな恋沙汰があったんだろうけと……」
秋はそう言うと悪い顔をしてニヤリと笑った。
そしてテーブルに置いている自分の左手に光る指輪に視線を向けながら彼は 話を続けた。
「ユキ、 本当は 森さんに ついて行くべきだって、お前 解ってるんだろう?」
「 ……!! 」
秋はゆっくり立ち上がり、
行人の 傍に行くと 「ポコ!」とデコピンをした。
「14年も 離れてたんだ。 何も心配することなんてないよ。
恭介さんに、千尋さんに、ひなたちゃん、
それにハルも居る。 俺には強い味方が沢山いるから、お前が居なくても 大丈夫だよ!」
そう力強く言いながらも、秋の声は震えていた。
本当は、心から『寂しい、寂しい』と叫びたくなる想いを、閉じ込めるように、言葉を発していたのだ。
全てを言い終わると、秋は 行人の頭を抱き寄せ、唇を落とした。
「 ……うん、アキ ありがとう。 」
行人も 愛おしい人の気持ちを、手繰り寄せるように、秋の身体を “キュッ” と抱き締めるのであった。
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