26.万物は陰を負い、陽を抱く!

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行人は、夕食を食べながら、森慎也から『海外に一緒に行く』と言う話があったことを、秋に包み隠さず話した。 (行人はあの一件以来、秋を心配させても、させなくても、取りあえず全部話すようになった。) 秋は 少し驚いた表情の後に、俯き行人の視線から逃れた。 ( アキが悲しそうな顔してる ) 行人は、動かしていた箸の動きを止めた。 「 アキ、ごめん! そうだよね、子供も小さいのに、海外に行くなんて、ありえないよね! 森さんには明日断りを入れるから!」 行人がそう言うと、秋は顔を上げて、パジャマの裾を持ちながら立ち上がり、ハサミを取りに行く。 「う〜ん? 大丈夫か? それで森さんから怒られたりしないのか?」 のんびりした秋の言葉が行人に飛んでくる。 どうやら俯いたのは、行人が海外に行くことが悲しいと言う訳ではなく、パジャマの裾からほつれた糸が伸びていたのが気になっていた 秋 だ… 「 いや、あ… 怒られたりとかは 無いと思うけど 」 「そっか、ならいいか!」 「 あの、アキさん? もし俺が海外へ行ったら寂しいな〜とかそんな気持ち、ちゃんと持ってくれてる? 」 「ん? もちろん持ってるに決まってるだろ!」 秋は、膨れっ面になりながら、ほつれた糸をハサミで「パチン!」と切ると、その糸を捨てるために、再び立ち上がり ゴミ箱のところへ行く。 そして、また椅子に座ると「ふぅ…」とため息を放ち、行人を 微笑んで見つめた。 「なぁ、ユキ、 俺たちさ、どれだけの年月を離れてた?」 その問いに次は、行人が固まった。 行人は指を追って数える。 「 14年 くらい 」 「そっか。 そんな長い間、ユキは俺のことずっと想ってくれてたんだな… まっ、途中 いろんな恋沙汰があったんだろうけと……」 秋はそう言うと悪い顔をしてニヤリと笑った。 そしてテーブルに置いている自分の左手に光る指輪に視線を向けながら彼は 話を続けた。 「ユキ、 本当は 森さんに ついて行くべきだって、お前 解ってるんだろう?」 「 ……!! 」 秋はゆっくり立ち上がり、 行人の 傍に行くと 「ポコ!」とデコピンをした。 「14年も 離れてたんだ。 何も心配することなんてないよ。 恭介さんに、千尋さんに、ひなたちゃん、 それにハルも居る。 俺には強い味方が沢山いるから、お前が居なくても 大丈夫だよ!」 そう力強く言いながらも、秋の声は震えていた。 本当は、心から『寂しい、寂しい』と叫びたくなる想いを、閉じ込めるように、言葉を発していたのだ。 全てを言い終わると、秋は 行人の頭を抱き寄せ、唇を落とした。 「 ……うん、アキ ありがとう。 」 行人も 愛おしい人の気持ちを、手繰(たぐ)り寄せるように、秋の身体を “キュッ” と抱き締めるのであった。
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