森さんは、心配屋さん

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慎也の受話器を持つ手はプルプルと震えだした。 『森さーん?』 「ーーはっ!」 秋から呼ばれて慎也は我に帰った。 「ーー秋くん、まさか、その草刈り1人で行っているのではないですよね? ゆ、行人くんは?」 『ユキは今日仕事なので、いないですよ! あっ、でもこれ 毎年1人でやってるので、心配いらないですよ〜」 元気にそう答える秋の声。 そのノーテンキな声に慎也の頭から“プチっ”と言う音がした。 「ーー秋くん。」 『はい!』 「ーー “心配いらないですよ” では、ないですよねぇ?」 『えっ……』 秋は初めて聞く、慎也の低い声色に、驚き固まった。 「ーーよろしいですか。 貴方は大事な、森家の人間なんですよ? その人間が、他人の敷地の草刈りをして……、まぁ、そこは、優しい秋くんのことですから、仕方ないとは思います。 ですが、1人で夏の暑い折に、働いて、倒れでもしたらどうするのですか。 晴くんで対応できるのですか? どうなのですか?」 マシンガンのように次から次に、飛んでくる慎也の言葉を、酸っぱいものでも食べているような顔で受け止める秋。 『あ、あの、す、すいませんでした。何にも考えていなくて……』 「ーー私に、謝罪をしなくて良いです。いずれにしても、行人くんが一緒の時に行なさい。今日の作業は、そこで終わり!!」 『は、はいー!!』 秋は、小さくなってペコペコと頭を下げている。 「ーー自宅に着いたら、自宅の電話機から私に電話をかけて下さい。 今日のことは、行人くんにも話しておきます。 以後このようなことがないように!」 怒れる獅子、森慎也のお説教通話が やっと終了した。
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