1.肝は将軍の官、謀慮《ぼうりょ》之より出《い》づ

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一方佐藤家ではーー 男女が言い争っている声が響いている。 「いや、秋が先に挨拶するべきやろ!長男として!!」 「いやいやいや!先に生まれたのは姉ちゃんやん!姉ちゃんが先やろ!!」 言い争っているのは、佐藤夏と佐藤秋の 姉弟(きょうだい)である。 なんの内容かというと、 今から母の兄であると言う “男” が佐藤家に来ると言うことで、『どっちが彼に挨拶をすべきなのか』で討論となっているのだ。 「もう!姉ちゃんに逆らうな!!」 姉は俺の頭を小突いた。 特に痛くもなかったが、姉に対して腹が立ったから… 「あぁーイテェー!!もう、お腹も痛いー!!」 と膨らんだお腹を抱えてやった。 「叩いたの頭やし、お腹は関係なかろうもん!!」 「いや、腹の中の住人も痛いと言いよる!」 「あぁーもう、うるさいったい!!」 姉が前髪を掻き上げると、家のチャイムが鳴った。 「もう来たやん!掃除もしてなかとにー!!姉ちゃんのせいやん、バカー!」と、つい悪態が漏れる。 「あんたが、日頃からちゃんとしとけばごげな事にはならんかったろーもん!」 「俺が悪うございました! 申し訳ございませんっ!」 嫌味ったらしく姉 にそう言いながら、玄関に向かう為 階段を降りようとすると、階段の手前で姉から腕を引かれる。 「……もう!秋、私が挨拶するけん。」 そうして、俺の腹を姉は見つめた。 「え……、 じゃあ、俺がするよ…」 「あ、ほんと!? どうぞ、どうぞ!!」 姉は手を前に差し出して、俺を先に降りるように促す。 「チッ」っと、小さく舌打ちをしてしまった。 玄関前に来ると、緊張のためか 「ゴクリ」と生唾を飲み込んだ。 (母親の兄……) 初めて会う母方の血縁。 しかも代々続くアルファの家系に生まれた男……。 「フゥー……」 俺は大きく深呼吸をして玄関を開けた。
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