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コーヒーを置いた父が
「わかった」
と、一言だけ。
わかった
それは、いいよ の返事だったと思う。父なりの言葉だったと。
だけど私はいいよって父の口から聞きたかった。
「パパ?それは、雄飛と一緒に住んでもいいよって事だよね?」
私達と目線を合わせる事なく暫く黙った父が
「娘を持つ父親ならきっと誰もが今の私の気持ちをわかってくれると思う…
本心を言うと、みな実をずっとパパの手元に置いておきたい。今日初めて会った男に大切な娘をどうぞ、一緒に住んでもいいよ、なんて言えないのが本心だ。だけどみな実が選んだ人に間違いはないと信用もしてる。
情けない話しだが心の底から喜べないのが今のパパの気持ちだ。でもね、みな実の幸せを誰よりも願っているのも事実だ。雄飛くんはいい加減な気持ちはないとも言ってくれた。
みな実…
雄飛くんに大切にしてもらいなさい」
「パパ…」
一瞬、シンと静まり返ったリビングに母の声がした
「せっかく朝から焼いたケーキ、コーヒーも冷めちゃったわ。入れ替えてこようかしらね。雄飛くんから頂いた焼き菓子も頂きましょう。ほらほら」
母は、雄飛のことがとても気に入った様子で、
雄飛くん、カッコイイわ。
雄飛くん、ステキ。
と何度も繰り返した。
父と雄飛も話しが弾んでいる様子だ。
2人ともお酒はいける口。
今度一緒に飲みに行こうと約束までしていた。
そんな父と雄飛を見てホッとした。
リビングのソファーセットから離れたダイニングの
テーブルで私は母と久しぶりのお喋りをする。
「みな実ちゃん、素敵な人と巡り合って本当に良かったわ。大学の4年間は本当に心配したもの…
雄飛くんに大切にしてもらいなさいね」
リョウと付き合っていた頃、よくは思っていないのだろうと思ってはいたけど、リョウとの事を否定するような事は言わなかった母。
兄には色々話したが母には話さなかった。
一度リョウをこの家に連れて来た時から母には心配を掛けていたんだと思うと心が痛くなった。
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