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「はい、そこまで」
驚いて、声がした方を2人で同時に凝視した。そこに立っていたのは、若旦那の長男だった。
「あ、兄貴…!」
「…愛を確かめ合うのは結構。ただ、仕事が終わってからにしてくれ、」
信じられないくらい冷静にそう言って、春彦さんは姿を消した。
一瞬、時が止まったみたいに、身動きが取れなかった。けど、2秒後には顔を見合わせて吹き出した。
ひとしきり笑って、私を抱き起こす彼。
「仕事終わったら、俺の部屋来いよ」
耳元で囁かれて、それがあの月島夏輝だと思ったら、恥ずかしくて居た堪れなくなった。
「…気が向いたらね、」
そう返したら、「素直じゃねー奴だな」と笑われた。
後々、春彦さんに「何であそこに居るのが分かったんですか?」って訊いたら、予約が入ってないはずのあの部屋の扉が開きっ放しだったので、不審に思って覗いただけだったらしい。
近頃、仕事が全然捗らなかったんだけど。今日からは集中して働けそうだ。
【おわり】
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