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「…あなた、幾つ?」
ある日の午後の休憩。将棋の駒を進めながら、彼女が尋ねた。
何度かこうして部屋を訪れて将棋を教えたが、意外と飲み込みが早く、すぐにそこそこの勝負が出来るようになった。久しぶりの将棋は楽しくて、今や俺もワクワクしながらここに来るようになった。
「今年、26になります」
「じゃあ、私の1つ上ね」
年下かよ、と内心思った。服のセンスが何とも言えなくて、年上だと思ったから。
「年上なんだし、その堅苦しい話し方、そろそろ辞めたら?」
「…お客様ですので、」
「辞めなさい、って言ってるのよ。名前も、篠宮様は禁止。華恋って呼びなさい」
「…はあ」
馴れ合うつもりは無いんだけどな。
そう思いながら飛車を取ったら、彼女は「あ!」と大声を出した。
ここ数日で思ったけど、彼女は動物みたいに素直だ。種類で言うと、猫。何にでも興味を持って、そう思えばやっぱりやらないとか要らないとか、面倒な事を言う。面白ければ笑って、腹が立てば怒って、気に入らなければ気に入らない顔をして。
出会って数週間の人間の前で、よくもまあそんなに感情を露わに出来るなと、感心さえした。
俺とは正反対だ。
いつも人の顔色を伺って。こうしたらどう思われるかなとか、こうやった方が親が喜ぶだろうなとか。現に今も、親の顔色を伺って結婚を決めたクセに、弟のことが気になって踏み出せなくなっている。
彼女みたいに言いたい事を言えたら、どんなに良いか。
どんどん駒を進めて王手をかけると、「ダメ!反則!もう一回!」と喚く彼女。その言い方がおもしろすぎて、吹き出してしまった。
すると、彼女が頬を染めた。それを見て、少し「ヤバイかな」と思ってしまった。自惚れかもしれないけど、それは花純が俺を見る顔と同じだったから。
「もうそろそろ休憩が終わるから。また明日」
慌ててそう言って、俺は駒を片付け始めた。
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