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月島旅館は、支配人である旦那様と女将さんが責任者。長男の春彦さんが後継ぎとして働いているので、てっきり他の兄弟達はどこかに就職すると思っていたのに。
ヒョッコリ戻ってきた次男は、言葉通り次の週の頭から、旅館の着物に身を包んで番頭の仕事を始めた。
朝礼で旦那様が言うには、高校を出てから専門学校を卒業し3年間日本料亭で修行を積んだ後、調理師免許を取得して帰ってきたらしい。ゆくゆくは板長を目指しているとの事。
厨房にも入るし、他の業務もやると聞かされて、そんなに志が高かったんだと正直驚いた。だけど、「だからあんな髪型になってたのか」と納得もした。
お客様のお見送りが終わったら、掃除と洗濯で大忙しだった。シーツやタオルを回収して、順番に洗って。毎日のことだし、もう5年目だから慣れたものだったけど、やっぱりかなりの重労働だった。
昼過ぎ。天気が良いので、旅館の裏に並べられた物干し竿に、シーツを干していると。
「よう、捗ってるか?」
背後から聞き覚えのある声がしたので、振り返ると見習い番頭が立っていた。
「…なに、早速サボり?」
「違ェよ。やる事ねーなら仲居さんの手伝いして来いって、お袋が」
「あっそ。邪魔しないでよね」
バンバンバンと大きな音を立ててシーツを叩くと、「手慣れてんな」と感心された。
「…いつから働いてんの?」
「高校卒業してすぐ」
「何で教えてくれなかったんだよ、」
「何で教えなきゃなんないのよ」
受け答えしながらも、次々とシーツを干していく。それを見ていた彼も、同じくシーツを手に取った。
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