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デートの間も、花純は浮かない顔をしていた。 多分、ていうか絶対、俺と小説家の仲を疑ってるんだろうなあとは思ったけど、かける言葉が見つからなかった。
例えば、花純の事を心底愛していたら、「愛してるのは君だけだよ」なんてドラマみたいな台詞も雰囲気さえ有れば言えるだろうし、強く抱き締めてあげることだって出来る。
だけど俺にはそれすら出来ない。
何なら、あの小説家のしかめっ面の方が気になっていた。あれは、明らかに花純の存在を嫌がっている顔だったからだ。
俺のこと好きなのか?この短期間で?
確かに、ほぼ毎日 一緒には居たけど。
好きになられるような事をした覚えもない。
花純を家まで送って帰って来て、自分の部屋に戻ろうとすると、廊下で夏輝に出会った。
「…どうした?」
「ちょっとトイレ」
「そうか」と弟の脇を通り過ぎようとすると、肩を掴まれた。
「…何だよ、」
「兄貴さ、気付いてねーだろ」
「何が?」
ーーーあのキラキラ女のこと、好きなんだろ?
キラキラ女。俺にはハリウッドセレブに見えたけど、弟にはキラキラに見えたらしい。
俺が彼女を好き?そんな訳あるか。
あるとすれば、向こうが俺のことを好きなんだろ。
「何バカなこと言ってんだよ。だいたい、俺には花純が…」
「なーにが花純だよ。秋宏の目ばっか気にして、何にも出来てねーくせに」
気付いてたのか、と思った。
夏輝は兄弟の中で一番チャラついていたけど、こういう時の勘だけは鋭い。ただし、人のことに関してだけだけど。
「兄貴が普通に笑ったのなんて、いつぶりだか分かんねーよ」
そう言われて、今朝の出来事を思い出した。あの時、空気が変わった。そこまで驚くことだったらしい。
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