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部屋に戻ると驚いた。前に、小説家の彼女が立っていたから。
「…どした?」
「えっと、あの、弟さんに部屋の場所を訊いて…」
「弟?」
「高校生の…」
「ああ、冬真か。で、何か?」
「あの、話が…」
そこまで聞いて、大体何の話か分かった。彼女の顔が真っ赤で、かなり緊張している様子だったから。
ここで、誰かに聞かれるとまずい。
「…とりあえず、入る?」
彼女は黙って頷いた。
中に入って、財布とスマホを机に置く。和座椅子に、彼女を促した。
「座って。お茶淹れるから」
「…いや、いい。すぐ終わるから」
「…じゃあ、座るだけ座れば?」
やっと、彼女は俺の向かい側に座った。表情はかたくて、目は泳いでいる。
長い沈黙。前に進みそうが無いので、俺が先に口を開いた。
「約束破った件なら、俺が悪かったから。将棋は明日やろう」
「ち、違…、そうじゃなくて…」
そりゃ、そうじゃないだろう。だけどこちらから「俺のこと好きなんだろ?」って言うのもおかしな話だし。とりあえずこの場を何とかしたかった。
「…言いにくい事なら、明日また聞くよ」
そう言って、ナチュラルに追い返そうとした。だけど、彼女は突然わっと泣き出した。
まさか泣くとは思わなかったので、さすがに狼狽える。と、彼女がポツリと言った。
「好き、だと思う。多分、あなたの事」
ああ、やっぱり。出来たら聞きたくなかった。これ以上、俺を面倒に巻き込まないで欲しい。
「彼女が居るのを知って、本当に悲しかった…胸が苦しくて、今日1日、あなたの事ばかり考えてた…」
そんな事を言われても、俺には花純が居て。彼女の気持ちに答えるなんて絶対に出来ない。
「間に割って入ろう、なんて考えて無いの。ただ、あなたと一緒に居たら、きっと諦められないから…」
ーーー明日、ここを出て行きます。
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