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後日。俺は花純とその両親、そして自分の両親を食事に誘った。場所は、旅館の広い客間。食事はうちの板前が特別に用意したものの予定だった。
「全員揃ったし、順番に出してもらいましょうか?」
母さんがそう言って、立ち上がろうとする。それを、俺は止めた。
「その前に、お話があります」
そう言うと、空気が張り詰めたのが分かった。
立ち上がって、机から少し離れたところに正座をする。そして、頭を下げた。
「今回の婚約は、無かったことにして頂けませんか」
口々に、驚きの声が上がった。下げている俺の後頭部に、声が降る。
「ちょっと春彦、どういうこと…?」
ーーー花純では、不満かね?
花純の父親の、低い声が響いた。俺は顔を上げて、向き直る。
「花純さんは悪くありません。全て、私の責任です…!」
すると母さんが難色を示す。
「そうは言っても、昔からのお約束なの。うちの跡取りと、花純ちゃんが結婚する事は」
そう言われるのは初めから分かっていた。だから、俺は心に決めて来たのだ。
「もし、無かったことに出来ないのなら、俺は若旦那を降ります」
両親が、目を見開いた。「何を言ってるの!」と母親が怒鳴る。
分かってるよ。俺だって、バカなことを言ってるのはわかってる。だけど、もう、自分に嘘は吐かないって決めた。
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