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会食が終わると、すぐ彼女の部屋に向かった。
「…華恋、」
初めて、口に出して名前を呼ぶ。外から呼びかけると、襖を勢い良く開けて、彼女が顔を出した。何故か、泣きそうな顔だった。
「…入っていい?」
「…ええ、」
中に入って襖を閉めると、いきなり抱き着かれた。
「なになに、どした」
「…」
彼女は何も言わなかった。腰に回された手を痛いぐらい締め付けるから、からかってやりたくなって。
「…俺のこと、そんなに好きなんだ」
わざとらしくそう言うと、俺を見上げた彼女の顔は真っ赤だった。
「ち、違う!」
「違うんだ、じゃあ帰るよ」
「ダメ!絶対ダメ!」
そう言ってまたギュウギュウと腕を締めるから、吹き出して笑ってしまった。
「心配しなくても、婚約はなくなったよ」
彼女の髪に、初めて触れた。ツヤツヤで指通りが良くて、よく手入れがされていると思った。
「晴れて、俺は自由の身」
そう言って微笑うと、彼女はボロボロと涙を流した。
「もちろん、私の恋人になるでしょ…?」
こんな時まで上から目線なんだ、とまた笑ってしまう。
「喜んで、ならせて頂きます」
そう言うと、彼女はニッコリ微笑って、俺の胸に顔を埋めた。
と思ったら、次の瞬間には「あ!」と何かを思い付く。
忙しい人だな、と思いながらも、俺も楽しくなっていた。
「恋人になったんだから、するわよね?」
「…何を?」
「キスよ、キス!」
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