長男・春彦

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はあ?と素っ頓狂な声を上げてしまった。だってキスって、こんな雰囲気でするものでは無い。しかも、彼女は恋人が出来たことが無いと言っていた。きっとファーストキスだろうから、もう少しムードのあるところですれば良いのに。 「するでしょ?恋人同士なんだから。ね?」 好奇心旺盛で、気まぐれで、猫みたいな彼女。 「ね、ホラ、早くしてみて!」 目を閉じて待っているから、額に唇を寄せた。 「あっ、そこじゃな…!」 「そこじゃない」と抗議されるのは分かっていたから、言われるより先に唇を塞いだ。ほんの一瞬、たった1秒ほどの出来事。 離れると、彼女の瞼がパチパチと2回動いた。 目を見開いて固まっているから顔を覗き込んだら、みるみる赤くなって。終いには両手で顔を隠して、畳の上で屈んで丸くなった。 そんなに照れるなら、「して」なんて言わなけりゃ良いのに。 リアクションが面白すぎて、俺はまた声を立てて大笑いしてしまった。 彼女は本当に面白い。一緒に居て飽きないし、俺を楽しませてくれる。だから、もっと知りたいと思ってしまうのだ。 ちなみに、彼女は初めての恋というものを体験し、俺の家族も含め旅館の人とたくさん接して刺激を受けたらしく、早々に原稿を仕上げていた。 俺は俺で、彼女のお陰で、同じことの繰り返しのこの毎日に刺激が増えた。 今後、お互い退屈せずに済みそうだ。 【おわり】
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