四男・冬真

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ーーーおい、サル! 教室の戸口から冬真が呼んでいた。みんながこれでもかとニヤニヤしているので、悪いことをしているような気分になる。 「てめえ、今日、何の日か忘れてねえよな?」 そう訊かれて、考えた。今日は、9月26日。全く、心当たりが無い。 私の頭の上のハテナが見えたのか、冬真は近付いて来て、私のこめかみを拳でグリグリと攻撃した。 「痛、イタタタ!」 「てめえがレディースデーだから映画行きたいって言ったんだろ!下駄箱で待ってても来やしねえ!」 そう言えば、先週、そんな約束をした。「俺は観たくない」なんて言ってたクセに。 「分かったらさっさと準備しやがれ。終わっちまうぞ」 「でも、観たくないって…」 「付き合ってやるって言ってんだよ!早くしろ!」 そう言って、床に置いていた私の鞄を掴む冬真。 「あ、でも、アルバムの写真…」 私が呟くと、みんなが手の甲を払って「シッシッ」と合図した。 「ホラ、行くぞ」 冬真が私の手を引く。と、背後でクスリと笑われて。 ーーー焦れったいから、早く付き合えば良いのに。 そう聞こえた気がした。
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