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こんなに傷付くとは思わなかった。
でも、考えてみれば、彼女が居ると聞いたことはあっても、一緒に居るのを見たことは無かった。増してや、誰かとキスしているところなんて。
ベンチに腰掛けて、鞄を漁ると、銀色の袋が出てきた。中身は、棒状の、チョコレートでコーティングされたクッキー。無性に食べたくなる時があって、夏が終わるとたいてい鞄の中にストックがある。
開けたは良いけど、あんまり食欲はない。1本咥えて、空を見上げた。
好き、ってことなのかな。
今さら気付いたって遅いんだけど。この前の映画の帰り、ハンバーガーショップの時点で、もし気付いていたら。何か変わったんだろうか。
すると突然、視界が陰った。
ポキッ、と音がして。私が咥えたクッキーの先を、その整った唇が齧った。
「と、冬真…!」
口を開けてしまったので、残りが下に落ちて折れた。
一瞬で、身体中の血が巡って、心臓がドクドクと音を立てている。
そんな私をよそに、彼は「もったいねーな」と言いながらクッキーを拾い、「3秒以内だから」という持論を述べて口に運んだ。
間接キスじゃん、とまた顔が熱くなる。
溶けたチョコが指についたのか、それを舌で舐めとる彼。以前まで何とも思わなかったのに、それだけでまた心臓が跳ねた。
右隣に彼が座る。肩があと数ミリで触れる距離。目を逸らすと、右肩から痛いくらいの視線を感じた。
「なあ、」
「な、何…?」
「訊きてーことがあんだけど、」
「…何よ?」
ーーーお前さ、俺のこと好きだろ?
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