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違うって否定すれば良かったのに。
「何で知ってるの!」
と、正直に、しかも大声で返事してしまった。それを聞いた冬真は、吹き出して笑った。
「だから、素直過ぎだって!」
「だって…、」
「あー…、やっぱ面白えわ、お前」
まだ笑い続けるけど何も言えないから、肩を少し押した。
「…で、いつから気付いてたの?」
「ずーっと知ってたよ、俺は」
そう言って微笑うから、キュンと胸が鳴った。コイツの八重歯がイイと言う理由を、初めて理解した。
「俺のこと好きなくせに無自覚っぽかったから。ちょっと観察しよっかなって思ってた」
「あ、悪趣味…」
「そしたらさっきすげー傷付いた顔したから、そろそろ気付いたと思って、確認に」
見透かされてるな、と思うと同時に、それを聞いて思い出した。混乱して頭から飛んでたけど、コイツはさっき女の子とキスをしていて。彼女がいるくせにからかいに来ただけなら、性格が悪すぎる。
「そ、そうだよ!アンタ、彼女居るんじゃないの?」
「はあ?1年くらい居ねーよ、」
「さっき!キスしてたじゃん!」
「ああ、さっきの。あれは、してたんじゃなくて、されてたんだよ」
「さ、されてた…?」
「そー」
言われてみれば、確かに壁に追い詰められていたのは彼の方で。迫られていたというのにも納得がいく。
「じゃあ、あの子の事を好きな訳では…?」
「無い。ちゃんと断って来た」
ホッと胸を撫で下ろす。と、突然頭に手を置かれた。わしゃわしゃと、ベリーショートの髪を混ぜられる。
「な、何…?」
「こんな可愛いのが俺のこと好きなのに、他の奴と付き合うかよ」
「は、はあ?」
可愛い、なんて、小さい時に親に言われたのが最後だ。
「俺はずっと口説いてるつもりだったのに、全然気付かねーんだもんなあ」
「そ、そうなの…?」
「お前さ、俺の前だけ女の顔になるんだよ」
「え、ええ?」
「さっきから、ずっと。堪んね、」
そう言って抱き寄せられて。私の心臓は弾け飛びそうだった。絶対に冬真まで鼓動が聞こえてしまっている。と思ったら、「心臓うるさすぎ」と耳元で笑われた。
少し腕が緩まって、目が合って。
ーーー玲。
初めて名前を呼ばれて、ファーストキスを体験した。
【おわり】
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