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三男・秋宏
三男の僕は、兄弟の中で一番地味だ。
兄さんは一番頭が良くて、要領も良いから何でもそつなくこなす。次男のなっちゃんと四男の冬真は、明るくて面白くて、いつも性別関係なく大勢の人に囲まれていた。
それに比べて僕は、身体も弱いし、気も弱い。友達なんて全然居ない。たまに学校や道端で女の子から連絡先を訊かれたりしたけど、ピンと来なくて教えなかった。
唯一、絵を描いているときだけが楽しい時間だったんだけど、母さんに「男が絵なんか描くんじゃありません!」とよく叱られていた。
そんな、絵を描くことさえ制限された僕に安らぎを与えてくれたのが、幼馴染の花純ちゃんだった。
彼女は、近所に住む地主の娘。幼稚園から高校まで一緒だった。初めて会話をしたのは、僕が描いた絵が市内の展覧会に出展されたとき、たまたま会場で出会った時だった。
「あきひろくん、とってもじょうずだねっ」
そう言って微笑ってくれて、子供心にすごく嬉しく思った事を覚えている。
それから徐々に話すようになって、彼女は唯一、僕の友達と呼べる存在になった。
そんな彼女は、僕の兄さんの許嫁だ。
僕が13歳の時、正式に婚約が確定したことを聞かされた。その瞬間 酷く傷付いて、彼女のことが好きだったんだなと自覚した。
だけど、親が決めた事で兄さんを恨む事は出来ないし、僕は行き場のない気持ちを噛み殺す日々を過ごした。
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