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「なんでもない、もういいから椅子に座れ、何をしてもパンツは見せないぞ」
「ちぇ、減るもんじゃないのに」
「うるさい、そういう問題じゃないんだよ!」
ちぇ、ともう一つ舌打ちして、ノリタケは椅子に座りなおした。それから、ふと思いついたように、
「ねえ、いちごちゃん遅くない? もう授業始まるよ?」
「そういえばそうだな、ちょっと見てこようかな」
「僕も行くよ」
二人は連れ立って教室を出た。誰かが廊下の奥の方からどたどたと走ってくる音がする。足を止めてそちらを見ていると、現れたのは夕だった。金髪を振りみだし、顔は青ざめている。
「うわあ、綺麗な子が走ってくるよ、パンツ見えそう」
「あいつ何をあんなに慌ててるんだ?」
「音色さーん!!」
「あれ、知り合いなの、音色ちゃん?」
「まあ……」
音色は言葉を濁した。
「音色さん! 大変です!」
音色のすぐそばで足を止めた夕は、息を切らせた様子もなく、襟首を掴むと、再び走り出した。
「おーい、音色ちゃんどこ行くのー?」
「わからーん。いちごちゃんのこと頼んだぞー」
音色は夕に首根っこを掴まれて引きずられるようにして去って行く。もう授業始まるのに、とノリタケは口を尖らせた。
音色が謎の美少女に連れ去られるのを目撃したノリタケは、美少女には敵わない、などとぶつぶつ言いながら、校舎裏のゴミ捨て場に向かっていた。一年校舎のすぐ裏なので、歩いて三分ほどしかかからない。にもかかわらず、なぜいちごちゃんは戻ってこないんだろう。本当はいちごちゃんのことなど、ノリタケにはどうでもいいのだが、迎えに行くと言った以上、行かなければ音色に殴られるだろう。殴られるのも最近は快感になりつつあるのだが、その理由がいちごちゃんであるとやっぱりあんまり嬉しくないのだ。
校舎裏のゴミ捨て場は、いつもと同じくじめじめとしていた。地面にはところどころ白いキノコが生えている。そして、大きなかごが三つ設置されていて、燃えるゴミ、燃えないゴミ、ペットボトルと表示されている。そのかごの前に、いちごちゃんはいた。
頭がひし形の、妙な人間に囲まれて。
「い、いちごちゃん!」
思わず声を上げると、ひし形人間はノリタケの方を振り返った。紫の頭に見据えられて、ノリタケはじりじりと後ずさる。
「な、なんだこいつら……」
「ノリタケ君、逃げて!」
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