2人が本棚に入れています
本棚に追加
「世の中はくそ、人生はくそ……」
指定かばんを背負って、叶原音色はうつむきながら帰路についていた。隣で、金髪碧眼の美少女が、はぁ、とため息をつく。
「一体どうしたんです。陰気な人ですねえ」
「明日は遠足なんだ」
「ええ、知ってますよ。あなたの隣の席に座って、きちんと先生の話を聞いていましたから」
それがどうしたんです、と青目夕は尋ねる。セーラー服が全く似合わない少女だ。音色は夕をちらりと見てから、だって、と口を尖らせた。
「遠足にはおにぎりだろ?」
「そ、そうとも限らないんじゃないですかねえ……」
夕は音色が言いたいことがわかったらしく、目線をさまよわせた。
「遠足にはおにぎりなんだよ! 何につけてもおにぎりなんだよ! 私はな、おにぎりがだいっすきなんだ!」
「もちろん、知っていますよ」
「どっかの化け猫のせいで、私はおにぎりもまともに食べられない!」
「それは……、すみません」
夕は殊勝に言って、うなだれた。
「なぁ、やっぱり明日、おにぎり食べたらダメ? 一個だけ!」
「ダメです! 遠足の時におにぎりを一つ食べたとしましょう、その後三回変身しなきゃならなくなったらどうするんです? すぐに致死量ですよ!」
「ううぅー、やっぱり世の中はくそ、人生はくそだ!」
「サンドイッチもおいしいですよ、きっと」
夕は慰めるように言った。音色はしかし、悲しそうにうつむいているだけだ。音色がこのような表情をすることはめったにないので、夕は再び小さな声で謝る。
「……本当に、ごめんなさい」
「……なあ、魔法少女って私とアオ以外にいないの? いるならその子に任せて、私は明日遠足でおにぎりを……」
「ダメですってば! 魔法少女はそうたくさんはいませんし! ほら、いちごちゃんと山内君を守るためですよ」
アオは力強く、たしなめるように言う。音色は首をひねる。
「そもそもあの異界人はなんだって美少女や美少年を連れ去ろうとするんだよ。私とと似たような趣味って言うけどさ。あいつらにもこの世界の人間の美しさが理解できるものなのか? 濃い紫のひし形が美しいとか独自の文化があるんじゃないか?」
「急にどうしたんですか、やけに説明口調ですが……」
「おまえが説明不足なんだよ! なんであいつら私のいちごちゃんやノリタケを狙うんだよ! その辺のどうでもいい連中ならご愁傷様―で済むのに!」
「本当に最低ですね……」
最初のコメントを投稿しよう!