1章:魔法少女ロイネちゃん誕生

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「世の中はくそ、人生はくそ、ふざけやがって……」  ぼやきながら歩くのは、生きることに疲れたサラリーマンではない。セーラー服を着て、教科書の入ったカバンを背負った中学一年生の女の子である。時刻は午前九時。完全に遅刻だ。二度寝の誘惑にあらがえなかった結果だった。叶原音色(かなはらねいろ)はくそくそくそと吐き捨てて、地面を睨みながら学校に向かっていた。 「家で延々とおにぎり食って暮らしたいな……おにぎり食うだけで承認されてえ。美少女とひきこもり生活……」  ぶつぶつ言い続けていると、どこからかか細い声が聞こえてきた。音色は足を止め、顔を上げて辺りを見回した。耳を澄ましていると、その声は猫の鳴き声であることに気がついた。 「にゃーん、にゃーん」 「なんだ猫か。どうでもいいな」  道路の脇にある錆びたベンチの下で、小さな白猫が鳴いているのが見えた。金色の目で音色を見つめ、何かを訴えているかのように鳴き続けている。 「いいか、野良猫。強く生きろ、私じゃない、もっと優しそうな人間に媚を売れ、私じゃだめだ、いいな?」   音色はかがみもせずにそう猫に話しかける。猫はわかっているのかいないのか、口を閉じて音色を見上げた。綺麗な目をしているな、と音色は思う。 「優しい人に拾われるといいな」  もう一度 呟いて、踵を返すと。背後からまた声が聞こえてきた。今度は猫じゃない。それにもっと遠い。音色は勢いよく振り向いた。百メートル後方、クラスメイトの野崎(のざき)いちごちゃんが走ってくるのが見えた。「ちこくちこく!」 「あ、あの、昔のマンガみたいなことを言い、食パンをかじりながら走っている彼女はいちごちゃん!」  いちごちゃん、と手を振ろうとして、音色は思いついた。ベンチの下にはまだ猫がいる。 「この猫に餌をあげてるのをいちごちゃんが見たら、私のことを見直してくれるんじゃないか!?」
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