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「にゃーあああああ!」
足元でアオが威嚇するように鳴いた。そんなことを言うんじゃない、という意味だろう。けれど音色は苛立って、脅すようにアオに拳を振り上げた。
「うるさい! おまえのせいだろう、いろいろと!」
と、背後からひどい、という聞きなれた声がした。ぴたりと、音色は振り上げた拳を空中で止めた。アオは同情します、という表情をした、猫のくせに。音色はそろそろと拳を下ろし、振り返った。そう、いちごちゃんがいた。
「飼ったばかりの猫ちゃんに暴力ふるうなんて。音色ちゃん……」
「い、いや、いまのはじゃれてただけっていうか」
「……ねえ、音色ちゃん」
いちごちゃんは上目で音色をじっと見つめた。その目は少しうるんでいて、音色は謎の罪悪感を覚える。
「音色ちゃん、変わっちゃったよね」
「私が?」
「うん。小学生のころは、誰かや何かに暴力をふるったりしなかったでしょう? それとも、私が気づかないだけで蔭ではそういうことをしていたの?」
久しぶりに問われていると音色は思った。近頃のいちごちゃんは、音色の話も聞かず、音色ちゃん最低、と吐き捨てて去っていくことがほとんどだった。
「音色ちゃん、どうして、変わっちゃったの」
「私は変わってないよ」
見つめてくるいちごちゃんから目をそらしながら、音色は答えた。自分では変わったつもりはなかった。確かに、暴力をふるうようになったのは中学生になってからだが、それは今まで暴力を使う必要がなかったからだろうと音色は思う。いちごちゃんは悲しそうな顔で、静かに頭を振った。
「前の音色ちゃんなら、猫に手をあげたりしなかったでしょう」
「だから、じゃれてるだけだって、なあアオ?」
「えっ、飼い猫に青目さんと同じあだ名つけてるの……? そっか、青目さんと仲良しだもんね」
「はっ? いや、たまたまだって、たまたま! 別になんか意識してってわけでもない、ほら、目が青いだろ、だから」
音色はアオを抱き上げて、いちごちゃんにその顔を近づけた。
「えっ、全然、青くないよ……きれいな金色だよ?」
「はっ? えっ? お、おまえなんで青い要素がないのにアオって名前なんだよ!」
「なにそれ、自分でつけたんでしょ……変だよ、音色ちゃん」
いちごちゃんは言いながら半歩下がった。本当に引かれているらしい。絶望する音色に、アオはにゃーと鳴き、音色の腕から飛び降りると駆けだした。
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