2章:ロイネちゃんと遠足

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 当たり前じゃん、とでも言いたげだった。そりゃそうか。音色は弟を押しのけるようにして家の中に入った。廊下の突き当たりの部屋、台所では、母の奏(かなで)が鍋の中をおたまでかきまぜているところだった。 「ただいま、ママ」 「おっかえり、音色! 今日も今日とて辛そうな顔をして帰ってきたわね!」 「そうなんだよ」 「明日は遠足でしょう! もっと楽しみにしなさいよ! 三種類くらいおにぎり握ろうと思ってるのよ!」 「あー。ママ、明日はね」  言いかけた音色をママはさえぎった。 「まずー、スパム結び! スパムとタマゴをご飯にはさんで、ノリで巻いて食べるの!」 「お、おいしそう……」 「次にー、みりんとしょうゆで味付けした豚肉でご飯を巻いた、肉巻きおにぎり!」 「ごくり……」 「そしてー。やっぱりシンプルに鮭おにぎりよね、最後は」 「うん、鮭おにぎりも大好きだよ……」  音色は泣きそうになりながら言った。食べたい、ぜひとも食べたい。アオがにゃー! と鳴いた。わかってる、わかってる。 「ママ」 「なあに? いいのよ、ママ、音色ちゃんのためにおにぎり作るの大好きなの」 「ママ、ごめんね。私、もうおにぎり食べられないんだ……」 「え? な、何を言ってるの?」 「だから、明日はサンドイッチにしてほしいんだ。ごめんね」  いつの間にか背後にいた弟が、姉ちゃん、と小さく声を出した。ママが口をぽかんとあけている。 「おにぎり、嫌いになっちゃったの?」 「そういうわけじゃないんだけどね」 「結平、どうしてだと思う? 変だよ、変だよ。音色ちゃんが変っ」 「俺もびっくりだよ……姉ちゃん、どうしたの?」 「いや、深い理由があるわけじゃないんだ。ただ、おにぎりよりサンドイッチが食べたいんだよ」  音色は無理やりそう言った。サンドイッチは嫌いじゃないけれど、おにぎりの方がもっと好きなのだ。ママは残念そうに、そうなの、とつぶやいた。 「わかったわ、サンドイッチね! ママ、とっても美味しいサンドイッチ作るから、楽しみにしててね!」  ママはにっこり微笑んだ。音色はほっとして息を吐く。けれど、もう一つ頼みごとがあるんだった。 「あのさ、ママ? 明日、お弁当、一つ余分に作って欲しいんだけど、いいかな?」  はっと、アオが音色を見上げた。音色はちらっとアオを見下ろしてから、またママの方に顔を向ける。 「無理だったら別にいいけど」
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