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「む、無理じゃないけど……! そう、そうだったの!」
ママはお玉を握り締めた。鼻の穴は膨らみ、頬は赤い。その背後で鍋がぶくぶく言い始めている。
「急にサンドイッチが食べたいなんて言いだしたのも、そういうことね!」
「え? 何?」
今ので魔法少女になったことがバレたしまったのかと思った。でもどうして? 内心慌てる音色に、ママは目を輝かせて言った。
「恋人ができたんでしょう?」
「は、はあ?」
全くの誤解だ。なんで、と桔平がボソリと言った。そりゃそうだ、この姉に恋人なんかできるわけがない。
「だから、おにぎりよりも女の子らしく見えるサンドイッチにして、さらに恋人の分までお弁当を用意するつもりなのね! 素敵だわ! 青春じゃないのー!」
「いやいやそうじゃないって!」
「照れることないじゃない! でもね、音色ちゃん。恋人の分のお弁当は、自分で作ったほうがいいと思うの。ママが作ったら意味がないわ」
「えええ! いやだから、恋人じゃないし!」
「そうと決まれば! 明日のために仕込みするわよ~」
全然話を聞いてくれる気がないらしい。音色ははぁ、とため息をつき、またアオを見た。アオは両目をきゅっと瞑って、感謝と謝罪の意思を示した。きっと音色には伝わらなかっただろうが。
ぶつくさ言いながらも、音色は赤色のエプロンをつけて、ママと二人で並んでキッチンに立っている。アオはそれをそっと見守っていたが、桔平がご飯の時間だね、と言ってくれたので、桔平と共に廊下に出た。アオは廊下で食事を摂ることになっている。緑色の水入れと、同じエサ入れが並ぶ前にアオ座ってにゃおんと鳴いた。桔平は何故だか暗い表情でアオのエサ入れにキャットフードをからから音を立てながら入れてくれた。アオはその横から顔を突っ込んでかりかりと餌を食べる。猫のときはこのキャットフードが美味しく感じるが、人間の姿のときは全然食べたいと思わない。不思議だが、それだけアオの魔法の効果が強いのだろう。
アオが食べすすめていると、桔平がねえ、と話しかけてきた。アオは顔を上げて桔平を見る。
「姉ちゃんに恋人だって、アオは知ってる?」
「にゃー」
いない、ということなら知っています。そう言ったつもりだが、桔平はそうだよな、と頷いた。
「知るわけないよな、アオが」
「にゃ!」
知ってます、と言い張るが伝わるわけもない。
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