2章:ロイネちゃんと遠足

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 感謝しろよ、と音色は言って、緑色の巾着に入った弁当箱を差し出した。一年生全員が集まった校庭は、いつもより狭く感じる。皆、制服ではなく思い思いの動きやすい格好をしている。音色はチェックの赤いシャツに黒いジャージのズボン。アオは緑のTシャツに黄緑のジャージ。スタイルがいいのでなんだかおしゃれに見えなくもない。アオは巾着を受け取って、礼儀正しく頭を下げた。 「はい、感謝します、ありがとうございます」 「まさか、私が作る羽目になるとは……ところで、アオ?」  音色は急に声を潜めた。顔の前で両手を開き、なあ、と尋ねる。 「私、昨日と今朝、指をはちゃめちゃに切っちゃったんだよ」 「はちゃめちゃって表現怖すぎますよ?」 「いや、マジで指取れると思ったもんね。でも、治ってるんだよ。どうなってるんだ」 「あれ」  アオはきょとんとした。 「言ってなかったですか? 魔法少女は基本的に不死身なんです」 「……不死身?」  怪訝な顔をして聞き返す音色に、アオは当然のごとく説明を始める。 「はい。基本的にどんな怪我もすぐ治りますし、魔法少女に変身している状態で死ぬことはありません。ただ、変身していないときに心臓を貫かれたら死にます。あとはそう、変身するために食べるものを致死量摂取したら死にます。それ以外では死ぬことはないです」 「じゅ、寿命は?」 「基本的には寿命、という概念はありません」 「お、おまえ……」  音色はぶるぶると震えた。アオはやはりきょとんとする。 「どうしました?」 「な、なんてことをしてくれたんだ! 不死身? 死なない? なんで! それって人間じゃないじゃんか!」 「は、はあ……死は不幸なこと、ですよね? それがなくなったんですよ。どうしてそんなに怒るんです?」  アオは本気でわかっていないらしい。これが異界人との価値観の差なのか。 「長生きすると、最後には一人になる」  ぼそりと、音色はつぶやいた。 「え、それは、どういう意味ですか?」 「もういいもういい。なってしまったもんはもう仕方ない。文句言っても仕方ない。はぁ、世の中はくそ、人生はくそ、それは本当にそう」 「す、すみません……」  よくわからないまま、アオは謝罪した。それを見抜いて、音色は冷たい声を出す。  「思ってないのに謝るなよ。ちっ……そんなことより、いちごちゃんを探せ」
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