2章:ロイネちゃんと遠足

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「きゅ、急に何を言ってるんですか、私よりもあなたの方が早くいちごちゃんを見つけられるに決まってるでしょう」 「だとしても。二人で探したほうが早いだろ、私服が見たいんだよ! ……あ、いた」  すぐに見つけたらしい。音色はじっといちごちゃんを見た。いちごちゃんは他のクラスの女子と楽しそうに話している。いつものおさげに、いつものいちごのついたゴム。そしてなぜか体操服……。 「な、なぜいちごちゃんは体操服なんでしょう?」  首周りと袖口にだけ青いラインが入り、胸元には校章と名前が刺繍されている。そして紺色の短パン。黒のハイソックスに白いスニーカー。完全に体育の授業だ。 「な、なぜいちごちゃんは体操服なんだ?」 「それは今私が言いましたけど……あ、こっちきますよ」 「うわ、また怒ってる! 私今日は何もしてないよな!?」  いちごちゃんは一人で、芝生を踏みしめてずんずん歩いてくる。口をへの字に結んでいて、どう見てもお怒りだった。音色はどうしよう、と慌てふためき、アオの後ろにさっと回った。 「音色さん、それ意味ないですよ」 「わかってるけど!」 「音色ちゃん、青目さん」  ぴたりと、二人の前で足を止めていちごちゃんは怒りのこもった声で言った。 「なんでしょう、野崎さん」 「今、二人で、私のこと笑ってたでしょう!」  わなわなと震えながら、いちごちゃんは言った。アオは呆れながら首を横に振る。 「いいえ? そんなことありませんよ。ただ、どうして体操服なんだろうねって話していただけです」 「ううー、馬鹿にして! 体育祭の気持ちだったの!」 「今日は遠足ですけど」 「そう、なのに、体育祭の気持ちだったの……」  いちごちゃんは短パンのポケットに手を入れた。中から出てきたのは、赤いハチマキだった。 「……組み分けもしてないのに、赤組の気持ちだったんですか」 「他に体操服の人いないかな……」 「いませんよ」 「だよね、恥ずかしい……はあ……」  顔を真っ赤にして、いちごちゃんはハチマキを握り締めた。音色はたまらなくなって、アオを押しのけた。一歩前に踏み出して、目を見開いているいちごちゃんに力強く告げる。 「そういう、天然なところ、いちごちゃんのいいところだよ、超長所だよ! 自信を持っていいよ!」  音色は励ましたつもりだったのに、アオはため息をつき、いちごちゃんの顔はさらに赤くなった。
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