0人が本棚に入れています
本棚に追加
「暇ねえ。とても暇だわ」
漆黒の玉座に、寝転ぶように座る女性があった。
ひじ掛けに両腕を乗せ、顔は側面にしな垂れるよう。妖艶な唇がつんと上を向いている。
「ねえ、暇だわぁ、わたくし」
女性は先ほどより大きな声で不平を漏らした。声が、わんと世界に響く。
――そこは、黒と蛍光色の紫で彩られた世界だった。
黒の世界に発光する紫の線が走り、それがネオンのように世界を照らしていた。光の線は床に幾何学模様を作り、宙へと伸びアーチのように広がる。お終いに、彼女が鎮座する黒の椅子に収束し、樹木の管模様を描いていた。
線はあるところで途切れていて、その先は完全な暗闇が広がっている。
と。
その完全な暗闇の中から滲み出るようにして。
「お呼びでしょうか、【めるめ】様」
一人の少女が姿を現した。
白というより白金を思わせる肌に、どうすればそんな自然な色に染めることができるのかと頭を捻ってしまうような、不思議と違和感のない、美しい桃色の髪。小柄な体躯、少し尖がった耳。その容姿のどこを取り上げても、人間味を感じさせない。
最初のコメントを投稿しよう!