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五年目になる。
彼が亡くなってからの年数だ。
そうして私は今年も命日からわざとズレた日に
この壊れたカメラを持って来てしまう。
彼の温もりなんてとうに残って無いのに。
ふと、彼の眠る墓を見る。
ひび割れたコップに桜の花びらが一枚、浮いていた
忘れていた。そうだ、ここには桜が咲くのだっけ。
あ……蝶々だ。墓石に蝶々が来ている。
そう言えば彼は良く蝶々を撮っていたっけな。
ふふ……私ったら忘れてばっかりだ。
彼が居るなら怒って貰えるかな。
笑いながら私は壊れたカメラを包む様に抱いた
「さようなら、もう来ないかもしれないわ。ごめんなさい」
さあっと吹いた風は春らしく、暖かくどこか優しかった
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