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「表情が優れませんね。やはり私と行動を共にするのは耐えられませんか?」
路地裏を進みながら、玉は桃舞に話しかける。桃舞は先ほどからずっと玉の言葉を無視し続けていた。しかし、その視線は常に彼女の背中を捉え、彼女の数歩後ろをゆっくりとついて来ている。いつでも裏切りに備えられるように警戒しているようだった。しかし、久遠たちへ玉の正体をの伝える事はまだしていなかった。下手に連絡を取る素振りを見せれば、彼女が人質に対し、どのような行動を起こすか分からないからだ。
「息苦しいですね。そんなに監視するように見つめられても何もする気は無いですよ」
少年は女の言葉に反応することはなく、状況に変化は無い。玉はため息をつくと、進めていた足を止めて桃舞に向き直った。
「妖が何故この世に存在しているか、貴方は知っていますか?」
唐突に、玉はそんな話を切り出した。
無言を続ける桃舞の瞳が少し細くなる。返答は無いが、今までの会話とは異なると理解している反応だ。玉は構わず先を続ける。
「現代の陰陽師は、妖はこの世を形作る陰陽五行のバランスが崩れる事で形成される澱みのようなもの、という教育を受けている。それは正しくもあり、同時に肝要な部分が抜けていますね」
「……」
陰陽寮の教えは、陰陽寮創立の世、飛鳥時代に記された、古文書を元に代々受け継がれている。桃舞も白臣も、勿論、有隆ですらその教えを基本として陰陽師を務めてきた。彼女の指摘している肝要な部分。それは彼ら陰陽師の中で暗黙の内に理解しているとある事実の事を指している、と桃舞は思い当たっていた。
「人間の持つ、虚無・不安・嫉妬・憎悪・絶望。それらの想念はやがて捻れ集まり、混ざり合ってとある一定の存在を生み出す。それが妖です。貴方がた人という種がこの世に存在しなければ、我ら妖もまたこの世には存在しなかったでしょう」
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