急「現実」

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〈そこからはもう何が何だか分からなかった。僕たちはたくさん走って、気が付いた時には、この道で父さんと母さんと一緒に倒れてた。二人ともたくさん血が流れてて死んじゃってるみたいだった。多分襲ってきたあの怪物に殺されたんだ。僕の体もなんだか半透明で物も掴めない。これって幽霊になっちゃったって事だよね。でも、探したけど僕の体だけは何処にも無いんだ〉  少年の言葉を黙って聞く桃舞(とうま)。彼の体は恐らく、大嶽丸(おおたけまる)のあの体の事だ。あれは、この少年の肉体を乗っ取った姿だったのだ。何の罪もない一般市民。それもこんな小学生ほどの子どもまで手にかけるとは、到底許せない。 〈なんなんだよ。あのばけもの。なんで僕たちを……〉  少年の瞳に涙が溜まる。目の前で両親を殺されたのだ。その衝撃は生半なものでは無かったろう。少年の気持ちが痛いほど分かるからこそ、桃舞(とうま)は少年にかける言葉を考え、躊躇した。今何を言ってもこの少年を安心させる事など出来ない。死、という明確な終わりを過ぎたこの少年には桃舞(とうま)のようにやり直す時間すら与えられなかったのだから。     「ごめんよ」  桃舞(とうま)は片膝をついて少年に視線を合わせた。何もできない自分の無力への嘆きを込め、少年に謝罪した。せめてもう少し早く気が付いていれば。 「君も君のご両親も私に救う事は出来ない。せめて、今の私にできるのは、その化物を倒す事だけだ」 〈倒せるの? あのばけものを〉 「ああ、そのために私たちはこの町に来たんだ」  桃舞(とうま)は穏やかな笑みを浮かべて少年に向き合う。負の感情に押し潰されそうになっている少年に少しでも安心を与えられるように。それが本当に気休め程度にしかならなくとも、桃舞(とうま)はつい自然とそのように振舞っていた。 〈僕はこれからどうしたらいいの?〉  少年は不安げな表情を浮かべている。幽霊となった自分の行く末など想像がつかないのは当たり前だろう。 「君にとってはすごく不安な事かもしれない。だけどよく聞いて」 〈なに?〉 「君は、君自身が理解している通り、幽霊だ。その状態が長引けば、悪霊と化してしまう危険がある。平たく言えば、君たちを襲ったあのばけものと同類に変じてしまうんだ」  少年の顔が驚きと共に恐怖に彩られた。
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