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そ、そんなのやだよ僕〉
「そう。だから君をこれから成仏させる。君を天国に送る手伝いをさせてもらうってことだ」
〈本当に天国に行けるの? 地獄に行っちゃったりしない?〉
「大丈夫さ。君は何も悪い事をしていないのだから」
正直な話、陰陽師として幽霊などといった霊的な存在と接する世界で生きてはきたが、あの世の構造が本当はどうなっているかなどは桃舞も知らない。あの世に直に言った事などある訳が無いのだから。だが、本当にあの世が天国と地獄に分かれているのなら、少年が向かう先は絶対に天国のはずだ。
「心配いりません」
すると、今まで無言を貫いていた玉が口を開いた。少年も桃舞も彼女の布で隠れた顔に視線を向けている。
「泰山府君は無辜の民を地獄に送るような誤審はしません。あなたは間違いなく『御霊園』への入界が叶う」
玉の言葉の意味がよく分からず首を傾げる少年。その様子を見て、言い方が難しかった事を悟った彼女は数秒、考えてから再び言い直した。
「天国であなたの父と母に再び会えるでしょう」
〈本当!? また父さんと母さんに会えるの!?〉
無言で頷いて肯定を示す玉に桃舞は思わず驚いた視線を向けていた。
妖が人間の子どもにこのような言葉をかけるなんて思ってもみなかった。妖にはおよそ心というものがない。だからこそ、十年前のあの時のように目も当てられないような惨劇を引き起こす。決して分かり合う事など出来ないはずだ。そのはずなのに。
「妖にも心はありますよ」
まるで桃舞の考えを見透かしているように、玉は呟いた。
「さあ、この子を導いてあげましょう。常世より離れた安楽の地へ」
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