第三章 瓦解

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 もうそこには、かつてのタクシー乗務員の地位向上を考え、お客様の利便性を考えてダイナミックに経営をする姿勢はなかった。タクシー料金の決済は現金が主流だったが、大手四社はクレジット決済も可能な端末をこの年から導入しはじめた。関東無線もこれに追随した。この情報がはじめの耳に入っても、はじめはクレジットカード決済にすれば、それだけ資金回収まで一か月以上かかる上、手数料も取られるから必ず後悔することになると言って相手にしなかった。しかし、乗車の際にはクレジットカードが利用できるかどうか聞いてくる客が増えてきていた。フェニックスタクシーは相変わらずの現金決済だったので乗車の際に断られるケースも出始めていた。決済方法がこれからは多岐に渡ると、大手四社は既にマーケティングにより結論づけていた。決済端末は1台当たり20万円はかかるが、必要な設備投資と考えた。はじめは、決済方法が多くなったところで売上があが るわけではないのだから無駄な投資だと考えていた。確かに、その通りであったが、洋子はその時はじめの経営の弱点を痛感した。守りに弱い経営なのだと。売上げを上げるための方法とは言えないが、クレジットカードが使えないことによる機会損失について考えを及ぼすことができなかった。洋子は、はじめにそのことを伝え、いずれ売上を押し下げることになるので、今からでも遅くないので導入すべきだと進言した。しかし、はじめは取り入れなかった。業界を牽引していた岩城はじめではなくなっていた。  バブル崩壊の余波は、タクシー業界、とりわけ中小の企業には重くのしかかっていた。不動産投資にどっぷり浸っていた経営者も多数おり、倒産しそうな会社が続出した。クレジットカード端末機の導入も出来ないところは大手四社に買収されていった。そうしてますますフェニックスタクシーとの差は開いていった。はじめはただ傍観するだけだった。
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