第三章 瓦解

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 観光バス事業は、あの事件以来都内の観光だけしか仕事の依頼がこなくなり慢性的な赤字事業になっていた。大手四社は積極的に販路を拡大していった。はじめは、退院してからというもの、タクシー関係者の会合には一切出席しなくなった。会社の内部に籠るような人間になっていた。以前なら自分の知らない業種の方たちとも精力的に会うようにしていた。はじめの口癖も「そのうちなんとかなるから焦るな」になった。病気後はじめは全くの別人になってしまった。赤木は世界的なプロモーターという触れ込みだったが、キューバ大使館やベネズエラ大使館にツテがあった。その関係で大使館のハイヤーをやれないかとはじめに話を持ち込んだ。はじめは、即座に了承した。直ちに、練馬営業所にハイヤー事業部を作らせた。もちろん洋子は反対した。馬込でうまく行かなかったからだ。ハイヤーは構造的に儲からないのをはじめも理解していたはずだ。はじめは、ボクシング事業 で売上がたたないことを気にして、赤木が見つけてきてくれたビジネスを形にしたかっただけだ。洋子が心配して助言しても聞き入れてはくれなかった。  練馬営業所のハイヤー担当は鍵谷課長になった。社長からの信頼も厚い男だった。ハイヤーは2台でスタートした。はじめ自身もそれ以上増やすつもりはなかった。大使館用ということで車種はベンツにした。かつての斬新さはないが、歯止めもなくやるわけではなかったので、洋子は取り敢えず様子を見ることにした。はじめも人の意見に耳を傾けなくなったので、会社内は閉塞感が出始めていた。裸の王様に、はじめは成り下がっていた。まるでフェニックスタクシーの独裁者のような振る舞いだった。     
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