彼のとなりに立つ条件

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 目の前に立っていたのは『一人の男の子』だった。  黒い髪をツンツンと立たせ……というか多分、直し忘れたであろう寝グセと思われる髪型に、七分袖のシャツに短パンという普通の服装。  しかし、片手にはなぜか『ボール』を抱えられていた。その色は濃い青と黄色……。 「何? 私に何か様?」  小学校に入学するタイミングで私はこの地域に引っ越してきた。  しかし、小学校に入学する前に幼稚園や保育園ですでに顔見知りになっている場合が多い。  つまり、卒園したらそのまま小学校に入学……という形になる。  そのすでに出来上がった輪の中に入る事も出来ず、私は完全に友達を作るタイミングを失ってしまった。 「いや。なんでいつもいるのかな……って気になって、友達いねぇのか?」 「あんたに関係ない」  学校から帰った後、特にやることもない。宿題もすぐに終わってしまう。  親が家にいれば多少は話が違ったかも知れないが、残念ながらそれはなかなか難しい。  そもそもここに引っ越して来たのも両親が離婚したからである。  一人で家にいるのも寂し……じゃなくて暇だし、ゲームを買うほどお金に余裕もない。  だから私はもう何度も繰り返し読んで内容もほぼ覚えてしまった昔に買ってもらった本をこの公園で読んでいたのだ。 「……」  さすがに素っ気なく言い過ぎてしまっただろうか。  男の子が無言のまま言葉に詰まっている様子をチラッと見てちょっと自己嫌悪した。  もっと他にいい言い方があったんじゃ……と反省した。 「じゃあ今、暇か?」 「え?」  しかし、その男の子は私の予想に反して「そんな事は気にしていない」と言わんばかりにそう言ってきた。 「いや、いっつも同じ本を読んでいたし、たまに空を見上げているのを見ると……さ。暇なのかな……って」 「暇だったら、何?」 「一緒に遊ぼうぜ! 一人でやっていても楽しくないんだよ」  男の子は「よし来た!」と言うかの様に満面の笑みで、私の前にズイッと持っていたボールを突き出した。 「私、やった事ないからものすごく下手だけど」 「いいんだよ、誰だって最初は下手くそなんだから」  ちょっとした抵抗のつもりで言ったのだが、どうやら男の子には上手く伝わっていない様だ。
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