彼のとなりに立つ条件

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「ふーん? 好きな人ねぇ」 「何?」  彼女はチラッと私顔を見ると「いや? 別にぃ?」と含みのある言い方をして、そのまま視線を逸らした。 「それよりも、これからどうしようかな」 「今度は進路の話?」  彼女から始めたはずだったのに、「この話はそれまで」と言っているかの様に話題をサラッと変えられた。 「だって私たちのクラスって、進学と就職半々じゃん。やっぱり迷うんだよぉー」 「あー、自分の進みたい方に行けばいいんじゃない?」 「適当すぎるよ!」 「……」  私立の学校ではないから、経済的に厳しくても母はこの学校に進学する事に賛成してくれた。 「というか、湊。あなた、あの幼馴染と同じ様に進むの?」 「えっ? まっ、まさか。私と彼じゃ住んでいる『世界』が違うし」 「ふーん。そう言いながらも同じ学校来てんじゃん」 「そっ、それは……」 「頭では分かっているけどって感じなんだろうけど、これからもとはいかないと思うよ?」  まさしく「ぐうの音も出ない」状態だ。  頭では分かりきっている。いつでも離れる事が出来たはずなのに、私は気がつくと涼太の姿を探している  ――本当に矛盾していると思う。 「……」 「私が言うのはお門違いかも知れないけど、頭で考えるんじゃなくて、たまには直感で動いてみたら? 確かに、湊は冷静さが売りのプレーヤーだったけどね?」  何度か戦い、研究されているだけあって私のプレースタイルなんて分かりきっているのだろう。 「ごっ、ごめん。ちょっとトイレ」 「あっ、ちょっ……」  そう言って私は思わず逃げてしまった――。 「……」  分かりやすいほどの「敵前逃亡」だった。しかし、下手に何か言えば揚げ足を取られかねない。 「おっ、江崎(えざき)」 「先生」  トイレから出て来た私を偶然通りがかったバレー部の顧問が呼び止めた。
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