第1話 日常

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 そんな綾乃が高校生の頃である。ひょんな事から医者にかかった綾乃はその時にADHDと診断されてしまった。ADHDとは『注意欠陥/多動性障害』の意味である。物忘れが酷かったり、時間の管理が苦手であったり、衝動買いをしてしまう。その様な症状が出るのがADHDだ。  綾乃はその診断を受けてから、毎朝かかさず薬を飲み、月に1回は医師の診察を受けている。  そんな綾乃には幼い頃から夢があった。本に囲まれた生活をすることである。  大学を卒業して3年。綾乃はこの大型書店で勤務しながら、自分の障害と闘いつつ、1人静かに本に囲まれて死んで行くのだと思っていた。  ADHDの診断を受けている綾乃だったが、マニュアル通りの接客は一通り行えるのでこの書店での接客に不便を感じたことはない。  本を探しにやってくる客に対しても、小説からビジネス書籍まで、綾乃は興味のある本を片っ端から読んでいたので答えられないものの方が少なかった。ただ、雑誌の(たぐい)を聞かれるのだけは苦手であった。 「沓名君、巡回、いいかな?」 「はい」  レジが一段落つくと、綾乃は店長から店内の巡回をし陳列の乱れを直す作業を頼まれた。平積みにされている本を整頓する。下から本を取る客が多いので、自然と上の方の本が乱れてしまっていた。  店内を一通り巡回し終わった綾乃が、次にやることはPOP作成の仕事だ。  POPは本のおススメを書いたり、買い物客の興味を惹いたりするような内容にしなければならない。色とりどりのペンを使って、文字を目立たせて書いていく。読みやすい文字を意識しながら、派手過ぎず、地味過ぎないように装飾を施していった。  このように1日中立ち仕事であるこの書店店員の仕事は、体力勝負と言っても過言ではない。それでも綾乃はこの仕事が好きだった。
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