20人が本棚に入れています
本棚に追加
今日も事務的にレジでの接客をこなしていた綾乃は、たまたま持ち込まれた1冊の本に目を留めた。
(あれ? この本……)
それは以前自分も読んだことのある本だった。
「いらっしゃいませ、カバーはお付けしますか?」
「お願いします」
紙カバーをつけながら、綾乃はふと顔を上げた。レジカウンターの向こうにいたのはスーツ姿の男性だった。昼休みに来店したのか、胸元には名札が付いていた。
(天野楓さん、か……)
綾乃は何となくこの男性客の名前を反芻し、覚えていた。
『この本はおススメですよ』
綾乃は喉まで出てきた言葉をぐっと押し殺す。人見知りをする綾乃の悪い癖だった。
そのまま紙カバーをかけた本を袋に入れて手渡す。
「ありがとうございました」
どうしても無機質になってしまう声音で、綾乃は楓を見送った。楓も軽く会釈をして店を後にしていく。
綾乃はその後ろ姿を無意識に見送っていた。
楓が店を出た後、綾乃は黙々とPOP作成をしていた。その間に頭をよぎっていたのは、先ほど楓が買っていった本の内容だった。
(面白い本だったな……)
そのまま何事もなく仕事が淡々と終わっていく。
帰宅した綾乃は、頭の中でぐるぐるとしていた楓が今日買って行った本を手に取っていた。そのまま読み返していていく。
(やっぱり面白い……)
そのままどんどんと物語に引き込まれていき、気付いたら1冊丸々読み終えていた。時刻は早朝の4時になっている。
最初のコメントを投稿しよう!