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綾乃は天気が良かったこともあり、その日はそのまま公園へと向かっていた。大きなベンチに1人座ると、買ったばかりの歴史書物を開く。ゆっくりと物語へと吸い込まれていく綾乃の目の前を、多くの人が通過する。
その中にはもちろん、スーツ姿の男性たちもいた。
綾乃の私服はダボったいトレーナーパーカーに、下は灰色のジャージ。肩よりも長い髪は手ぐしで整えてあった。ラフな格好と言うよりは、綾乃は自分の身なりにそれ程関心がないようだ。そんな綾乃を不審そうに見つめる犬の散歩中の人やジョギング中の人も中にはいたのだった。
しかし綾乃はそんな視線はお構いなしで、読書を続けている。気付けば日が傾いていた。3時間程公園での読書を楽しんだ綾乃は、満足して帰路に就く。
こうして1日の休みを満喫した綾乃は、翌日の仕事に向けて準備をし、早めに眠りにつくのだった。
そんな日常の中、再びレジに持ち込まれた本に綾乃は目が釘付けになった。それは先日、自分が店長に相談して発注した、歴史書物だった。
「カバー、お付けしますか?」
「お願いします」
その声に聞き覚えのあった綾乃はふと顔を上げる。
そこには以前来店していた天野楓の姿があった。
綾乃よりも背の高い彼は、黒縁メガネをかけ、長い前髪で表情を隠している。
(あ、天野楓さんだ……)
綾乃は覚えていたその名前を思い浮かべた。
紙カバーをつけながら、この本のことを思い出す。公園で読んだこの本は、内容は重いものの、読後にずっしりとした思いと共にどこか前向きになれるものだった。
(本の趣味、一緒なのかな……?)
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