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4-4.仕える主は選べない
「ウィル」
「わかってる」
揺れを利用して、バレないように黒髪にキスを落とす。ウィリアムの優しい声に目を細め、エリヤは己の騎士に抱きついた。
左側の林から飛び出した数人の傭兵らしき連中が鬨の声を上げる。彼らの現れた方角は、スガロシア子爵の領地に続いていた。おそらく疑われぬよう、他家の領内に入ったところで襲う予定なのだ。
そんな簡単な目晦ましに引っかかる国王と執政ではないが、愚かな貴族は己の能力を尺度として相手を見下す傾向が強い。自意識ばかりが肥大した腫瘍と同じだった。切り捨てる外科手術が必要な時期に来ているのかも知れない。
先ごろの隣国オズボーンとの戦も、国内の貴族が絡んだ騒動から発展した。国は膨らんだ腫瘍の膿を吐き出さなければ、その巨体を保てないだろう。
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