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滅多に人前で甘えることのない少年王の両手が伸ばされる。膝を着いたウィリアムが苦笑して受け止めると、当然のように抱きついた。
「かしこまりました。こちらへ」
鍛えた腕で抱き上げたエリヤを馬車に運ぶが、入り口でエリヤは首を横に振る。
馬車が嫌なのではない。中に一人でいるのが嫌だった。後ろの馬車に侍女はいるが、同席させられない。この視察旅行に他の貴族は同行させていないため、国王の馬車に同席できる者がいなかった。
ならば、このまま馬車を警護する騎士であり執政であるウィリアムの馬に乗せてもらえばいい――無邪気に笑って強請る子供に、ウィリアムはしばらく考え込んだ。
領地の見回りをかねた視察に、ほとんど危険はない。国内しか移動しないし、そもそもが他国との状況が落ち着いたから視察旅行の時間を設けたのだ。
護衛騎士の立場から言えば、直近の危険がないからといって許可は出来なかった。執政の立場でも同じ意見だ。 だが傍らに侍る侍従としてなら……少し羽を伸ばさせてあげたい。
さらに、ウィリアムは『国王の恋人』だった。
恋人の我が侭を叶えたい。そう願うのは当然だ。迷いに足を止めたウィリアムの頬に頬を押し付け、エリヤは無邪気に答えを待った。
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