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なんだかんだ理屈をつけても、この男はどうしたって俺に甘い。世界の理のように揺るがない事実を前に、わかりきった答えを待つ時間は楽しかった。
やがて折れたのか、諦めたのか。ウィリアムが小さく溜め息を吐く。
「馬に乗るのは揺れるぞ」
耳元でこっそり囁く。乗り物に酔いやすいエリヤを心配しての言葉だった。
「構わないから、乗せろ」
傲慢な満面の笑みで言い切られ、その命令にウィリアムは肩を竦めた。 我が侭に振舞う主を愛おしいと思っても、厭うことはない。
子供らしくいられる時間を奪われた少年の、些細な願いを叶えてやれるのは特権とすら感じていた。
「わかった」
少し砕けた口調で了承を伝え、頬を綻ばせた恋人の黒髪にキスを落とす。
「陛下は乗馬をご希望だ。私が支えるから馬車は後ろをついてくるように」
執政ウィリアムの指示に反対する声は上がらず、親衛隊はただ頭を垂れて従う。 執政である彼の言葉に逆らう者はいなかった。
普段は『オレ』の一人称が、公の場では『私』となる。その違いを知っている――公私両面を知る立場にいる事実に、エリヤは少し優越感を覚えた。
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