4-2.ちょっと我が侭を言ってみたくて

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 左前足の先だけ白い毛が覆っている。片方だけ履いた靴下のような模様は、リアンという牝馬の特徴だった。牝馬は大人しく、主と決めた存在に尽くす。まるで踊るように軽やかな足取りに揺られ、エリヤは機嫌よく目の前の首筋を撫でてやった。 「最近忙しかったから、リアンに乗せてやる機会もなかったよな」  つい先頃、隣国オズボーンが攻め込んできた。ミシャ侯爵らを操って国の乗っ取りを計ったが失敗、結局正面突破をもくろんだのだ。  黒衣の死神――そう呼ばれる騎士が先頭に立ち、オズボーンの侵略は食い止められた。北の山脈の向こうへ敵を追い落とした騎士こそ、ウィリアムだった。  最前線にいたため、しばらく国王の側を離れていたのだ。  馬に乗せるのが久しぶりというより、こうして2人で過ごす時間が久しぶりだった。 「今日はアスターリア伯爵家か」  宿泊予定の伯爵家は、滅多に社交界に顔を見せない。上位貴族である公爵、侯爵、伯爵は社交界でのつながりを重視し、互いの婚姻によって雁字搦(がんじがら)めに縛られているのが普通だった。  アスターリア家は伯爵の称号を得たのは先代王の治世において、多大な貢献をしたためだ。そのため王室を護ることに関しては、他の貴族の比ではない尽力をしてきた。     
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