4-3.淑女という言葉は似合わない

2/3
前へ
/77ページ
次へ
 痴女と名指しされ真っ赤な顔で拘束される子爵令嬢が消えると、くすくす笑う少年王はその手を己の騎士へ伸ばす。しっかり抱き締め返す腕の中で昨夜はぐっすり眠った。 「あの女の詮議(せんぎ)は手配した」  国王暗殺未遂の容疑をかけたのは、執政たるウィリアムだった。己の権限を迅速に行使した青年は、腕の中に最愛の存在を抱いて笑う。どこか黒い笑みに、エリヤは肩をすくめた。  愚かなことしたものだ……この男は俺が関われば、一切容赦も慈悲もない悪魔となるのに。  あの女の将来は決まった。もう子爵令嬢の肩書きは名乗れず、犯罪者の烙印を押される。貴族の煌びやかな世界から弾かれ、親と家に見捨てられるだろう。  最近多い()()()()()()()()()――他家との婚姻のため養女とされた見目の整った娘――ならば、誰も助けの手は差し伸べない。だがウィリアムの追及はそこで止まらない。スガロシア子爵家も廃絶(はいぜつ)()()を見る筈だった。 「一任する」  幼い国王を抱きとめる執政の(たくま)しい胸に背を預け、エリヤは同じように笑う。伸ばした手がウィリアムの三つ編みを掴んだ。  人に刃を向けるならば、その刃が返される危険性は常に付き纏うのだ。理解しないならば、そんな愚かな存在に心砕く必要もない。     
/77ページ

最初のコメントを投稿しよう!

93人が本棚に入れています
本棚に追加