4-3.淑女という言葉は似合わない

3/3
前へ
/77ページ
次へ
 子爵令嬢の愚かで浅はかな(おこな)いが子爵の指示であったと考えるのは、当然だった。親の指示なくして、奴隷の養女が勝手に動く筈がない。つまり……子爵家の廃絶は決定事項なのだ。 「ああ……見えてきた」  左手で手綱を操り、器用に右手でエリヤの髪を撫でていたウィリアムが声をかけた。黒馬リアンの(たてがみ)を見ていたエリヤは、質素ながらも堅固な砦に似た城に頬を緩める。  豪華で実用性がない城を好む貴族が多い中、アスターリア伯爵の実直さがよく現れていた。祖父王が取り立てた若い貴族で、まだ腐っていないのだろう。  貴族であることを誇り、その責務をよく理解している。だから己の領地の民から無理な搾取をせず、領民のための施策も多く提案されてきた。いくつか彼の意見を取り入れ、この領地の灌漑設備や新たな作物の試験を許可した。  城の左側に見える畑で揺れるソバの実は、国外から取り寄せたものだった。痩せた土地でも育つ実績を持ち込んでウィリアムに種の取り寄せを頼んだ伯爵の熱心さは、他の貴族に望むべくもない。
/77ページ

最初のコメントを投稿しよう!

93人が本棚に入れています
本棚に追加