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 彼の得意分野は、高山植物だった。  日本国内の山々を登り尽くし、時にはカナダや中国にも行った。  父さんのフィールドワークに時折同行させてもらえるのは、密かに楽しみにしていた。新種を探す植物ハンターとして、新しい場所へ踏み出していく父さんの背中に、俺は一生懸命についていった。  そんな父さんがここ数年で力を入れているのは、アンデス山脈の一角に位置する高原地帯だった。そびえ立つ山脈の標高の高い所、巨大な湖があり、その中心には島がある。湖の水によって外界と隔離され、その島で独自に進化を遂げた植物が至る所に自生しているそうだ。  ただ、その島には自然と共に生きる原住民の村があった。島の淵を移動しながら生活し、何代もの長い時間をかけて自然と共生するライフサイクルを築いたのだという。そこで余所者の学者さんが、勝手に植物を採って持ち帰ってしまうわけにもいかなかった。最初の数回は村を訪ねて親交を深め、やがて研究に必要な分だけ植物を持ち帰らせてほしいという約束を取り付けた。  その村には子供を大切にする慣習があるということで、村を訪ねる際には息子の俺が駆り出される。ま、俺としても高校を堂々と休めてラッキーだしね。  湖の畔からは車を降り、これまた軋みをあげるモーターボートで島へ向かう。  湖に浮かぶ島と言っても、湖自体が全長百キロメートル以上あり、見渡してもその端は果てしなく遠く地平線の向こうだ。巨大な河をボートで渡っているようだった。実際に地図で見ると湖というよりは、自身の尾を咥える巨大なウロボロスが大地に横たわるように、巨大な河川がうねりながら環を作っていた。  ボートが着岸すると、白髪まじりの男と年若い青年が出迎えてくれた。 「ようこそ、イガキ」  運転手兼ガイドのラムティさんと父さんは白髪の男と話し始めた。父さんは村の人に挨拶を済ませてから、採集に取り掛かるのだろう。村に着くと、俺は父さんと別行動だ。時々父さんの仕事を手伝うこともあったが、基本的には子供たちと親しく遊んでいた。 「俊介、行こうぜ。遠かっただろ」  青年に誘われて、俺も村へ足を踏み入れた。
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